ウィスキー好きにせがまれて、秩父へ

ウィスキー好きにせがまれて、秩父へ

イチローズ・モルト

早稲田大学のエクステンションセンターカレッジで学んだウィスキー講座。講師の土屋 守氏

(バブルの頃に、英国でご一緒でした。日本語新聞を出している方で有名な編集長でした。しばらく英国研究家だとしていましたが、知らない間にウィスキーの専門家になっていました)

がスコッチ文化研究所を運営しており、一度は行くことをお勧めしていたのがウィスキーフェスティバルでした。そのイベントが2012122日にホテル・レバント錦糸町にて行われました。その際、スコットランドの蒸留所の社長らははるばるスコットランドから参加し、各日本のブランドブースで語り合っていました。そこに、入り込んで「日本で一番お勧めの蒸留所はどこだと思いますか?」と、質問をしたところ皆さん一様に「イチローズ・モルト」だと言いました。

 

イチローズ・モルトは、肥土一郎さんが始めたベンチャーウィスキー株式会社のブランドウィスキーです。彼は東京農業大学に入学し、醸造学を専攻し、卒業後にサントリーに入社し、山崎蒸溜所での勤務を希望していましたが、ウイスキーの醸造士には大学院卒の修士課程修了者のみを採用していたため肥土氏は夢を断念しました。

 

東京と横浜で営業の仕事にたずさわりました。その後、父が経営する東亜酒造へ入社し、東亜酒造の経営危機により、同社の羽生蒸留所は売却されます。しかし、売却先の企業はウイスキー事業からの撤退を決断し、羽生蒸留所のウイスキー原酒は期限付きで引き取り手が見つからなければ破棄されるという決定が下されました。肥土氏はウイスキー原酒を引き取ってくれる企業を探しつづけ、ついには福島県の笹の川酒造からの援助を取り付け、貯蔵庫に入れました。原酒の購入は親戚から資金の支援を受けました。

 

20049月、埼玉県秩父市にベンチャーウイスキー社を設立しました。肥土は技術指導者として笹の川酒造に通い、2005年春には笹の川酒造にあるウイスキーを「イチローズ・モルト」として商品化しました。アルコール度数56%のイチローズ・モルトカードシリーズの「キング オブ ダイヤモンズ」(KING OF DAIAMONDS) は、イギリスの『ウイスキーマガジン』のジャパニーズモルト特集で最高得点の「ゴールドアワード」に選ばれました。

 

200711月、ベンチャーウイスキー秩父蒸溜所が完成しました。現在スタッフは7名、肥土氏以外は「安くてもいいのでウィスキーに関わる仕事をさせてほしい」と飛び込んできた若者が動かしています。

 

見学ガイドをしていただいたのは、ディスティラーと言いホップの入っていないビールまで作ったものをアルコールの沸点が低いことを利用してアルコール度数の高いウィスキーの原酒を作る作業をするヒトのことです。

 

もちろんイチローズモルトを始める時に一番こだわって特注でスコットランドの窯元に作らせたのがこのポットスチルです。

 

現在、原材料の大麦は国内を交え輸入ものを使っていますが、新しい試みとし秩父で有機栽培した二条大麦をフロアにまいて発芽させるという本格的なフロアリングに挑戦を始めました。

 

また、輸入している大麦の中にはピートで香りを充分つけたものなどもあり、様々な組み合わせを考えています。

 

ピートは、化石燃料ですのでスコットランドから出してはいけないことになっています

まずはウイスキーの原料となる二条大麦のモルティング(製麦)です。

大麦を浸漬して発芽させ、その後発芽させたものを乾燥させる工程です。ここで広いフロアに広げることを「フロアリング」と言います。

 

およそ1週間~10日程の工程です。このように発芽させて「麦芽」を造るのは発芽させることによって酵素を活性化させて後の糖化を行わせるために必要な工程で、ビールも同様に行っています。

 

続いて麦芽を粉砕(挽く)する工程です。ミル(粉砕機)によって粉砕された麦芽は荒いものから細かいものを順にハスク、グリッツ、フラワーと言い、粉砕比率はハスク:グリッツ:フラワー=271となるように粉砕していきます。

ハスクの部分が沈殿して自然の濾過層を形成するのですがハスクが多すぎると液体が通り抜けすぎて濾過になりません。

フラワーが多いと目詰まりを起こしてしまいます。

 

麦芽が挽き分けられたら続いて糖化の工程です。マッシュタンク(糖化槽)へお湯と共に投入されると30分程で

ハスクが沈殿し濾過層を形成しつつでんぷんが糖化し甘い麦ジュースが出来上がります。

 

続いて2回目も同様に1回目よりも熱いお湯を投入します。3回目のお湯の投入で残糖分を回収し次の1回目の投入に回します。この後の発酵に使用されるのは1回目と2回目の麦汁です。

 

続いて発酵~蒸溜です。ウイスキーは基本2回蒸溜です。ウォッシュバック(発酵槽)へ麦汁と酵母が加えられアルコール発酵をさせます。発酵は4日程で度数は約8%になります。タンクの中では勢いよく発酵をしているため泡が勢いよくたっています。

その熱を取るためフタに扇風機がついており、温度を下げています。東日本大震災の時には、扇風機作動が制止、泡があふれ床が泡だらけになりました。

 

1回目の蒸溜をするウォッシュスチル(初溜釜)ではおよそ20%の度数のローワインが出来上がります。 そして出来上がったローワインを2回目のスピリッツスチル(再溜釜)で蒸溜すると約70%のニューポットが出来上がります。

また、2回目の蒸溜の際にはミドルカットがされます。蒸溜で最初に出てくる液体(ヘッド)は度数が高すぎ刺激臭が強いため熟成には不向きです。後半の蒸溜液(テール)は度数が低く原料からくる強い香りがありこれもまた熟成には不向きです。

熟成に使われるのは中心部分(ハート)の中取り部分だけで残りのヘッドとテールは次のローワインと一緒に再溜に回されます。またこのミドルカットのタイミングは時間で区切るやり方と感性(味覚や香り)に頼る方法があります。ベンチャーウイスキーは後者ですね。また、蒸溜で使用されるポットスチルは蒸溜の際、銅イオンを放出させウイスキーにとって不要な成分を取り除く効果があります。銅イオンを放出しているわけですからポットスチルはだんだん薄くなり20~30年も使うと指で穴が開く程になります。定期的な修理や交換が必要なんですね。

 

最後は熟成です。蒸溜したてのニューポットは無色透明の液体です。これを樽に詰め熟成を経てウイスキーとなり市場へ

出されます。熟成に使われる樽はバーボンの熟成で使用された樽やホワイトオーク樽が主に用いられます。サイズで名称も

変わり、一般的なのはホグスヘッド(約230リットル)、バレル(約180リットル)、パンチョン(約480リットル)があります。

バーボンで使われた樽はバレル(バーボンバレル)なのでこれをホグスヘッドに組み直したりしています。

バレルは液体と接触する面積の割合が大きいので長期熟成には向きません。

 

熟成する樽は、夏は暑く冬は寒いというその土地の気候が関係します。樽の貯蔵庫は、土がむき出しになっています。

その温度差で樽の中のウィスキーも息を吸ったり吐いたりするのです。

結果、1年で2-3%減ってしまいます。これを「天使の分け前」という名前で呼ばれております。http://tenshi-wakemae.jp/

 

ボトルに描かれているのは、ミズナラ(Oak)の葉です。理由は、ナラ材は樽を作るのに最適と言われています。ただし幹の中心がしなっているため、時間を経るとそのしなりの中から内容物が染み出してきてしまいます。日本酒でお馴染みの杉はどうか?というと実験的に行ったところ、オリエンタルな香りがしてしまうということで現在は実験段階だとのことです。ウイスキーが熟成される樽は他にも様々な酒の貯蔵で使われたものを使用することがあり、最もメジャーなものはシェリー樽。他にもワイン樽、コニャック樽等があります。

また、熟成されている間には少しずつ中身が蒸発してしまうんですね、およそ年に23%。天使の分け前と言われるものです。ケン・ローチ監督による同名の映画があります。職につくことができない若者がウィスキーのティスティングでその才能の片鱗を見せます。最後には、蒸留所で働くことができるストーリーです。

 

そのような熟成でスコッチウイスキーでは3年以上を経たものだけしか市場に出すことができませんが

日本ではそのような定義はありません。数ヶ月の熟成のものもあります。

 

ウイスキーの一番の魅力は言うまでも無く熟成です。ニューポットができるまでの工程によってもかなりの違いが生まれてきます。

訪日外国人が喜ぶさまは想像以上でした。